スティーブンスの日本旅行記 パート2-31
谷の斜面は、通り抜けられないほどの竹藪に縁取られている。ここから見る富士山は、壮大で不思議な光景である。風が強まり、円錐形の山頂は吹雪の雲にほとんど隠れており、遠くから見ると、まるで火山の噴煙と見間違えるようである。すぐ近くでは、風の精霊が竹の茂みを通り抜け、無数の霜で乾いた竹をこすり合わせ、独特のざわめき音を立てている。山の精霊のささやきである。
峠の頂上に到達すると、東海道は見事な松林の中を通り、酒匂川の谷へと続く急なジグザグの道を下って行く。この地域は極めて絵のように美しく、左手には小さな渓流が深い渓谷を流れ、反対側には山々がそびえ立ち、ところどころに数百フィートの高さから流れ落ちる滝が点在している。
午後1時までに湯本に到着し、人力車道が再開した。昼食には焼き魚と地元ビールを1本飲み、駕籠人足たちを解雇した。湯本からの道は、海岸沿いの人口約1万3000人の町、小田原まで4マイルにわたって緩やかな下り坂とる。道は平坦になり、これまでよりも広い。馬車が人力車や歩行者の群れに混じる。馬も馬車の御者も、まるで場違いな意識に圧倒されているかのようだった。
男たちが頑丈な手押し車を曳いており、東海道鉄道の建設資材を積んでいる。鉄道は急速に延長している。道のいたるところに活気が溢れている。日本の興味深い光景だ。湯本から30マイル、戸塚には居心地の良い宿屋があり、そこでは外国人の要求をすぐに理解してくれ、玉葱入りのビーフステーキを調理し、朝には東海道で初めて法外な料金を請求してきた。
戸塚は横浜の条約圏内にある。朝、横浜に向かって1マイルほど行ったところで、「ホワイトホース・タバーン」を通り過ぎる。そこは、横浜、あるいは東京から人力車でやって来る外国人のための宿屋として、ヨーロッパ風に建てられている。
南から吹く激しい風が、戸塚から横浜までの東海道の最後の11マイルを、私を吹き飛ばすように吹いていた。