2023年4月4日火曜日

スティーブンス箱根を越える

 スティーブンス箱根を越える

三島でスティーブンスはダルマ自転車を運んでもらうために駕籠舁きを雇い、箱根を越える。向かうは小田原である。

元箱根付近
玉村康三郎 撮影 明治期
やや左上の丘に箱根離宮が見える
長崎大学付属図書館所蔵


(「AROUND THE WORLD ON A BICYCLE」1889年版の一部抄訳)

箱根峠の上から見下ろす田園風景と雄大な富士山は素晴らしい。富士山は孤高のように聳えている。
山中の集落の近くに富士見平と呼ばれる名所もある。
大きなスギは、広い石畳の道に日陰をつくっている。
箱根の村と湖付近の南斜面の景色は箱根でもっとも美しい地域で、今日では東京と横浜に住むヨーロッパ人のお気に入りの避暑地である。
東京から芦ノ湖までは約 80 マイルの距離にあり、人力車と籠を使えば 1 日でたどり着けるだろう。
湖は最も魅力的な小さな水域で、山の中の宝石であり、その澄んだ水晶のような湖面は鏡のように周囲の景色を映し出している。
 日本の神話では、国の歴史の初期は超自然的な存在で、この地域にも神が住んでいた。
1868 年の明治維新で、これらの古い封建的慣習が一掃されたとき、この箱根は「防壁」の 1つとして塞がれ、パスポートなしでは誰も通過できなかった。
この防壁は、封建領地の境界線上にあり、旅行者が選択できる代替ルートがない地点に設置されていた。
箱根村から少し離れた東海道には、見事なスギ並木が影を落としている。 
左側には大きな政府の保養所(箱根離宮)があり、見事でモダンな外観の建物の1つである。これは現在のミカドの進歩的で賢明な政策を雄弁に物語っている。
その後、道は険しい山の斜面を上っていき、竹藪に縁取られている。
ここからの富士山は雄大で不思議な光景である。風が強まり、円錐形の頂上は流れる雪雲の後ろにほとんど隠れており、遠くから見るとちょうど火山の噴煙のようである。近くでは、風の精霊が竹藪の間を通り抜け、独特のざわめきをたて、まるで山の精霊のささやきのように聞こえる。
頂上に到達すると、東海道は見事な松林を通り抜け、ジグザグの道を酒匂川に向かって下っていく。この地域はほんとうに絵のように美しい。小さな渓流が左側の深い峡谷をつたわり、その反対側には山々が高くそびえ立ち、数百フィートの高さから岩が転がり、水しぶきをあげている。
男たちの一団が、東海道鉄道の建設資材を積んだ手押し車を押しながら働いている。
沿道には至るところに、日本の奇妙で興味深い生活があふれている。

午後1時に湯本に着く。
昼食には焼き魚と地元産のビールを1本飲む。
湯本から小田原の町までは4 マイルで、緩やかに下っていく。
海岸沿いには約13.000人の住民がおり、道は今までよりも広くなる。

人力車や歩行者の群れに馬車も行きかい賑やかになる。・・・・

箱根 塔ノ沢
小川 一真 撮影 明治期
まさに右上から岩が転がり
渓谷に落ちるような景観である
長崎大学付属図書館所蔵