スティーブンスの日本旅行記-③
長い綱で馬を先導する男たち。馬も牛も、男たちと同じように草鞋を履いている。
日本人が旅に出る際は、新しい草鞋を一足用意する。これは道の状態にもよるが、10マイルから20マイル旅ができる。履き古したら、どの村でも数セントで簡単に草鞋が買える。馬や牛の草鞋も同様であるが、通例は予備の草鞋を数足用意している。
峠の頂上は、尾根を貫く切り通しになっており、狭い段々畑や畑に沿って九十九折の道を日見川へと下っていく。滑らかで固い道が小川に沿って続き、ときおり石橋や木橋を渡る。内陸部に伸びる河口を過ぎ、小さな村の矢上に到着した。
日本の食堂は、どこもきれいで清潔感があり、 茶色の木工品は床から天井まで磨かれている。小上がりの端に腰を下ろすと女給が近づいてきた。 彼女はひざまずき、額を床につけて挨拶した。礼儀正しさは実に魅力的で、 もし鉄漿がなければ、 笑顔はきっと魅力的だったであろう。この国では、お歯黒は既婚と未婚の区別をあらわしている。 結婚すると歯は黒く染められ、それまでは小さな白い歯が並んでいて、それなりに魅惑的だが、このお歯黒は西洋人の心には全く不快なものになる。
日本の旅館では、魚と飯が最も簡単に手に入る食べ物であり、しばしば唯一のメニューとなっている。日本酒またはライスビールは、日本人の食事に含まれているのが普通だが、平均的なヨーロッパ人旅行者は、最初の飲み物をお茶だけにしている。日本酒は、徳利で提供される。酒を温めるために徳利を沸騰したお湯に数分間入れるが、日本人はそれを温めて飲む。酒はビールというより蒸留酒に近い。米から造られる純然たるアルコール飲料で、おすすめできる。最初は少々違和感があるが、ヨーロッパ人の口にも合うようになる。
矢上から最初の数マイルは、やや荒れた土地で、通常は良好な道路が通っているが、現在は大規模な補修工事中である。時折、道は切通で尾根を抜けるが、両側の茶色の法面は、シダや様々な色合いのつる植物があり美しい。岩や 竹林、趣のある小さな村、 農家が入り混じる風景は、まさに日本的である。
街道沿いの茶屋ではどこも素敵な着物を着て、にこやかに微笑む女給たちが魅力的である。彼女たちは店から 出てきて、通りすがりの旅人に休憩やお茶や軽食を勧める。彼女たちの接客は、愛嬌のある笑顔と丁寧なお辞儀、そして 「おはよー」(日本語の「お元気ですか?」)という明るい挨拶だ。茶屋に立ち寄る と、小さな女の子たちが「おままごと」 をするのと同じくらいの小さな急須 と、それに合うような茶碗が、漆塗りの盆に載せられ、愛嬌のある優雅さで客の前 に置かれる。店の前には、柿、菓子、ケーキ、そして様々な軽食が、食欲をそそる ように並べられている。どんなに些細な買い物 でも、その何倍もの価値がある親切さと礼儀 正しさで報われる。
日が暮れる頃、やや大きな街の大村に着き、魅力的な宿屋に泊まることにした。半ヨーロッパ風の服を着た若者が、私にちょっとした手助けをさせてもらえる機会に喜びを感じているようだった。二階の部屋を割り当てられ、私が横になれるように座布団を置いてくれた。礼儀正しい仲居が、入る時も出る時も額を床につけて挨拶する。お茶、お菓子、炭の入った小さな火鉢、痰壺など置かれた。これらのサービスは心地よく、私が腰を下ろすと、主人と妻と娘が皆でやって来て、最も上品なやり方で挨拶した。
他の東洋諸国で経験したような挨拶や敬意の表し方にもかかわらず、ヒンドゥー教徒が偶像の前でひれ伏すように、自分の前で頭を下げる光景には、やはり感銘を受けずにはいられない。