2025年5月11日日曜日

スティーブンスの日本旅行記-⑧

 スティーブンスの日本旅行記-⑧

日本の宿屋経営者がどうやって商売をし、これほど清潔な部屋を維持しているのか、日々不思議で仕方がない。

宿屋の決まり事は、到着した客が温かいお風呂に入り、その後、小さな火鉢の横にしゃがんで、夕食の時間までタバコを吸いながらおしゃべりすることである。日本人は他のどの国の人々よりも温泉入浴に夢中だ。彼らは摂氏50度(華氏140 度とあるが?)に熱せられたお湯に浸かる。この温度は「英国人」や「米国人」にとってはまったく耐えられないものだが、徐々に慣れてきて、耐えられるのである。男性も女性も、毎晩定期的に入浴する。日本人は、ヨーロッパ人との付き合いからまだ「恥じらい」をあまり意識していないので、男女が区別なく浴槽に頻繁に入り、まるで皆が小さな子供のようにお互いを気に留めない。風呂の「波間に遊ぶビーナス」は、日本の旅館の定番の光景である。また、ヨーロッパ人観光客が、オーナーやその妻や子供、メイド、お茶係、客、訪問者たちが、服を脱いで浴槽に入っていくのを見ようと群がっていることに、なぜ反対するのか、彼らには全く理解できない。彼らの無邪気な日本の魂に祝福を!なぜ彼は反対しなければならないか?彼らは、肌の白さを見たいという好奇心、独特な脱ぎ方に注目したいという好奇心、そして肉体的な可能性に関する一般的な探究心を満たしたいという好奇心から引き寄せられるだけである。彼らは、監視されることに対して、何ら嫌悪感を抱いていない。ではなぜ心の中で萎縮し、彼らを追い払わなければならないのか?

旅館の通常の食事は、米、さまざまな魚、小さく切ったパリパリの生のカブ、漬物、ケチャップのようなソースで構成されている。肉は、特別に注文しない限り、めったに提供されない。もちろん、その場合は追加料金がかかる。 酒も別途注文する必要がある。夕食後には、お茶の入ったティーポットと炭の入った火鉢が提供される。

福間では女将さんが牛肉の細切りと玉ねぎを少し取ってきてくれて、それを使って美味しいシチューを作ってくれた。料理の味付けに使う、ある臭いのする黒い液体に対する私の嫌悪に対し理解できていない。そして、玉葱、赤ピーマン、塩で作った私のシチューへの欲求は村中に広がり、それを自分で見て味わいたいと望む多くの好奇心旺盛な主婦たちを魅了した。頭を素晴らしく上下させ、真っ黒な歯を見せながら集まる。

私の部屋のドアの周りで、ご飯と一緒にシチューを食べるのを見ている。しかし、試食を頼んできた人たちは首を横に振って不承認とし、自分たちの黒い液体の方が優れていると主張する。もちろん、ダルマ自転車には限りなく興味が寄せるが、日本では好奇心が礼儀の範囲を超えることを決して許さない。だから、彼らは私が笑うのをとても望んでいるかもしれないが、しつこく私に迷惑をかけることは決してしない。

福間の宿屋の人々は素晴らしく社交的である。女将さんは夕方の間中ずっと私と一緒に座って三味線を弾いていて、その間彼女の夫とお茶係の娘たちは柔らかなメロディーを歌い、小さな磁器のお猪口で温かいお酒をすすっていた。これらは、ほんの数日前に私が中国で経験したこととはまったく違っている。しかし、私たちの多くは、日本人と中国人はほとんど同じだという幻想を抱いている。これほど大きな民族学的失望はかつてなかった!日本人自身もこの点には非常に敏感である。彼らは中国人とはまったく異なる起源を主張し、自分たちがはるかに優れていると考えている。

多くの旅行者は、日本人は表面的で、中国人が備えているある種の優れた資質が欠けていると言う。中国人は抜け目がなく、無節操で、陰険であるので、疑いなくよいビジネスマンになるだろう。一方、前述のように、日本人は生計を立てることに熱中しているようで、真剣に考えるべきではない。

昨晩のシチューの残りを朝食に食べ、翌朝下関に向けて出発する。松林に覆われた丘陵地帯を数マイル横断すると、道は小さな河口に位置する芦屋に着いた。芦屋では、にわか雨を避けながら村の床屋で、初めて純日本式髭剃りを楽しんだ。日本の髭剃り職人は石鹸を使わず、温かいお湯の入ったボウルに指を浸して顔を濡らすだけで髭を剃る。髭を剃る作業の間、彼は油砥石で頻繁に剃刀を研ぐ。顔全体と首を剃り、耳たぶ、額、鼻は剃らない。もしヨーロッパの旅行者が日本の村の床屋の椅子に座っている間、冷静さを保っていなかったら、彼は自分の顔と首から、口ひげやひげ以外のすべての産毛が削ぎ落とされ、眉毛もかなり短くなっていることに気づくだろう。


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「アウティング」誌 
第12巻 4月~9月 1888年(合本版)
自転車世界一周 トーマス・スティーブンス著
(アウティング誌特派員)