外国製自転車研究報告 - 1
下の写真は、
「外国製自転車研究報告」日本自転車工業会 編 1950年発行 より
「外国製自転車研究報告」の緒言より
10年の長きに亘る戦時期と戦後の混迷期とを通じ、荒廃した国土と乏しい資源とを踏台として、充ち溢れる人口を抱き、産業の再建と経済の自立という困難ではあるが、希望に満ちた道を辿るわが国 にとって、輸出、即ち国際収支改善のために有形無形の一切の輸出を振興することこそ、わが国をすくう唯一の途であると信ずるものであります。
かつては機械輸出額中首位にあつた自転車、平和産業としてわが国情に適した工業たり、中小企業として世界的に互換性を有する唯一の工業たる自転車、この自転車は如何にして造られるか、その理論は、その製造方法は、遺憾ながらこのような要請に応ずるための基礎資料は未だ確立されておりません。
況んや戰後の海外市場におけるわが国自転車と諸外国の自転車との比較研究による総合的な解析は殆んど行われていなかつたのであります。
この秋にあたり通商産業省通商機械局の絶大なる好意と指導とにより、昭和25年度 自転車産業振興事業中の一として日本自転車工業会に外国製自転車の性能等の研究を委託されましたことはまことに時機に適したものであると存じます。
研究報告の内容を検討して戴けば自から判明することでありますが、予期以上の成果を挙げえたことは委員諸氏、業界各位の努力および関連業界、学界の熱誠なる御支援の賜ものと深く感謝する次第であります。
なかんずく総合調査会場を提供された宮田製作所および各細目研究担当者が、人的物的負担をここ ろよく引受けられた御好意は筆紙につくしがたいものであります。とはいえこの壮挙があくまで振興費によつて基礎づけられていることを銘記しなければなりません。
今回入手の外国製自転車は英国製品のみであり、しかも殖民地向製品と観察されるふしもありますので、これをもつて英国製品の全貌を究め得たとは申しかねましょう。なお今後数年にわたる継続事業として所期の目的が達成されることを熱望するものであります。
本報告は昭和25年度外国製自転車研究事業成果の一端にとどまり、これが年度の関係上研究期間が短かかったことは誠に残念でありました。然しながらこの種資料に乏しいわが国自転車工業として未踏の分野を開拓したものといつても過言ではなく、直接間接に受けた影響は甚だ大であつて、これがやがて自転車生産技術の啓発と向上との方向を捉える契機となることを希望してやみません。
良識は良書によつて培われ、優良製品は優良技術に俟つ処が多いのであります。わが自転車工業にたづさわる諸賢が、本報告を熟読玩味し、自己の技術に不断の努力と高邁な指標とを注入し、以て品質の改良と原価切下とに思いをこらし、自転車輸出の振興に貢献されんことを願うものであります。
日本自転車工業会理事長外国製自転車研究委員会委員長
島野庄三郎