書籍案内
風に描く : 自転車と絵画 加藤一 著 文芸春秋
1987年3月1日発行
一部抜粋、
21 少年の夢
屋外での楽しい遊びは家の商売用の自転車を持出して、三角乗りをすることだった。子供用の自転車などはなかなか買ってもらえないのだ。今の子供にはわからないだろうが、三角乗りというのは、大人用の26インチの自転車では子供の足が届かない、そこで三角のフレームに足をつっこんで反対側のペダルをまわす、というより踏んで自転車を動かす乗り方である。
ニコライ堂脇の坂を上り下りするのはすばらしく楽しい遊びだった。Sの字にゆっくりカーヴする坂はたいしてきつくはない。それでも三角乗りで上まで登りきるのはかなり大変なのだ。途中から自転車を下りて押して上がらなければならないこともあった。しかし二階建ての自転車に乗ったような気持で、一気に下降するときの爽快なスピード感はこたえられず、二度、三度と性懲りもなく重い自転車を坂の上まであげたものだ。・・・
表題
国会図書館所蔵
奥付