2009年4月10日金曜日

ダルマ乗車方法

 オーディナリー(ダルマ自転車)の乗り方について、かなり正確な文章が志賀直哉の短編小説「自転車」にあります。次のような文章です。

学習院の仏蘭西語の教師に庄司という背の高い先生がいて、この人が乗っていたのは又一ト時代前のもので、前輪は径五尺程の大きな車、後輪は一尺もない小さなものだった。近頃は自転車変遷史の絵などで見かける以外、実物は跡を絶ったが、乗るには片足を前輪と後輪とをつなぐ弓なりのフレームについている小さなステップにかけ、もう一つの足で地面を蹴って車を押し、惰性のついたところで、二段目のステップから、悠然と鞍に跨がり、道行く人を眼下に見ながら走って行く。チェインはなく、足の一回転と共に前輪も一回転するのだから、今から考えると、そう早い乗物ではないのだが、総てが悠長な時代で、早い乗物と思われていた。庄司先生がこの自転車で今よりも急な九段坂を下りたという噂を聞いて、私達は感服した。

 更に詳細に書くとすれば次のようになると思います。
 先ずダルマ自転車の後輪の後ろに立ち、ハンドルのグリップを両手でもちます。次に左足を後輪の少し上部にあるステップに置きます。このステップは弓なりのバックボーンのフレームに取り付けられています。右足で地面を蹴りながら助走します。ある程度スピードが出て直進性が増し安定したところで、右足を地面から離し、サドルにまたがる姿勢に移ります。サドルに腰掛けたら両足を回転する前輪のペダルに回転に合わせて置きます。これで完了です。後はペダルを踏み速度を上げていきます。降りる方法は、乗る場合の逆になります。スピードをじょじょに落とし、ペダルから左足を離して、後方のステップを探ります。ステップに左足がついたら、腰をサドルから離し右足も下げていきます。スピードがなくなったところで、右足を地面につけ着地します。左足もステップから離し地面に着地します。
慣れてきましたら次のような下車方法ができるようになります。スピードを落して、左足がペダルとともに時計の針(左回りで)で言えば50分から45分にきたときに右足をペダルから離し、左側に飛び降りるような形で降ります。この際、左足も45分ぐらいで速やかにペダルから離してほぼ同時に飛び降ります。この時に一番注意する点は、左足をいつまでもペダルに置かないことです。50分から45分までの回転時にすばやく行います。いつまでも置くとペダルが下がりすぎバランスを崩して転倒してしまいます。

 ダルマ自転車で一番つらいのは上り坂と下り坂です。特に下り坂は怖いです。前輪のスプーン型ブレーキを急にかけますと前に体が投げ出されて非常に危険です。ブレーキを少しかけ、あとは所謂ペダルでバックを踏むようにします。急坂では降りた方が無難です。庄司先生は九段坂を下りたといいましから、度胸もさることながら、自信があったのでしょう。