2021年1月22日金曜日

空中自転車と水上自転車②

 空中自転車と水上自転車②

 次の記事も水上自転車の話しであるが、こちらの方は説明文だけで、絵や写真などまったくない。以下、文章を読んで想像願いたい。

 神戸居留外人中自転車乗の名人と云えば何人も指を二十番シー、マンシニ氏に屈することなるが、氏は既往十余年間斯道の練磨を積み今や其妙技神に入り其運転の迅速と非常なる耐力とは殆んど端倪すべからざる程にして例えば普通熟練家と呼ばれるサイクリストに一哩の距離を興うるも之を追越すは全く容易なりと伝えらるるが氏の自転車に関する技量は尋常サイクリストの如く単に陸上に止らずして又水上自転車の技あり欧州に於て度々之を試みたる由なるが今回大阪難波の技術家紙野種吉氏は自家の工夫に成りたるウォーター、タンデム、バイシクル即ち水上自転車の試運転を氏に衣頼し且つ其意見をきくこととなり去る7月前記発明者外一名之に乗り大阪より順風と順潮とに依り一時間半にて神戸に着し其後兵庫にて更に改造を加え8月12日海岸遊園地の下に於てマンシニ氏及び発明者之に乗り試運転をなしたり今同船の構造を記さんに外観は小水雷艇の如き形をなし長さ約3間幅5尺許にして中央のボックス内には一対の自転車の如き運転器と腰掛とありて2人並座し得る様に造り左右両端にはシガー形の大空気管あり管内は数室に隔離し各室ヴァルブにて開閉し一室破壊すとも他室は安全なる様に造り又船尾には二重螺線と2個の舵とありて、普通自転車の如く足にて器械を廻せば螺線は其力に依りて水を掻き之と同時に中央部に一本のマストありて之にヨットに用ゆる如き帆を備えあれば風力をも併せ利用して事体を進行せしむる仕掛なるが其速力は六海里乃至九海里吃水十二吋実価は 125円乃至175円にして本邦に於て斯る器械を造りしは之が嚆矢なれば愈成効の上は海事上に新生面を開くべしと云ふ。
(「輪友」 第11号、明治35年9月5日発行より)

 水曲社のダルマ自転車と較べると、この文章を読む限りこちらの方が、どうも物になりそうな感じである。どうやら2人乗で自転車の動力を使い、スクリューを回転させる方式のようだ。また帆を使って風の力を併用させるところも実用的でおもしろい。
(つ づく)