2021年2月3日水曜日

空中自転車と水上自転車③

 空中自転車と水上自転車③

 これも水上自転車の話し、雑誌「輪界」(第11号、明, 42.7.25 発行)に、石山式水上自転車発明談と云う次のような記事がある。

 石山式水上航行器の発明者埼玉県熊谷町48番地平民石山善太郎氏が今回其筋の特許を得たる水上自転車に付き一言せん

 石山氏の経歴
 石山氏は今年26才の青年にして熊谷町に生れ幼にして熊谷小学校に学び明治32年進んで熊谷中学校に入り同校卒業後は専ばら商業により身を立てんと欲し出京の上早稲田大学商科に学びしが中途にしてやめ郷里に帰臥し居たり茲に氏の厳父新蔵氏は幼より発明を好み家事一切は父ならびに家内等に任せ専ら諸種の発明に腐心し従来其功を完うしたる者尠からざりしとなるが明治17~8年の頃より水上航行器を発明せんと心懸け種々苦心する処ありしも不幸にして最新の科学的素養なきため之が発明を善太郎氏に依頼したり然るに善太郎氏も中学こそ卒へたれ工芸科学に関する素養なきより爾来独学にて此等の研究に従事し専念苦心の結果漸々一昨年末に至りて略々理論に合致したる考案成りたるより再び之を持参し上京したり。

 実験の困難
 石山氏は之を友人等にもかたく秘し成功の暁発表せんと思い居りしが如何にせん之が実験の頗る困難にして若し公衆に悟らるるが如きことあらば折角の苦心も他に占領さるるの恐れありとて自身は製図等にも熟練し居ざるより止むなく一友人に託して製図し且つ芝浦製作所理事石川角造氏の経営せる芝区三田四国町の特許模型品製作所に至り石川氏に事情を打明けて製作方を託したるが如何なる事情や伏在しけん石川氏は受託後半年を経過するも之が製作を完成せざりしため昨夏には其筋の特許をも受けんと楽しみ居たることも水泡に帰し焦心憂慮屡々催促をなし漸く昨年 41年 10月頃に不完全ながらも工を竣れり

 実験の結果
 芝浦製作所に於て製造せる同器を以て品川湾にて実験したるが其結果は製作所にて工を粗雑にせるため二、三の欠点はありたれども理論上に於ては全然成功を見るに至りたるを以て直に特許局にも申請し之が特許を求めたるに幸にも特許を得るに至りたり

 価格と製造
 石山氏は熊谷町に於て製造所を有するにあらざるより之が製造販売は直ちに実行するは困難なる由にて氏は今や終生懇命の大発明に腐心し居ることとて之が特許権を譲渡さんとの考えを有し居れりと尚を製造費は全部鋼鉄製として130円ないし180円位にて製作し得る見込みなりと。


以上の記事であるが、
 この水上自転車も図面もイラストが無いため全くどのような形のものか分らない。
芝浦製作所でもまともなものが出来なかったところを見ると、かなり複雑な構造のようである。あるいは理論的にはすばらしい乗物かもしれないが、実用にならない代物かもしれない。
 いずれにしても、これだけの記事から推論することは不可能に近い。ここではただ、石山式水上自転車なるものがあったと云うことを、頭の片すみにでも入れて置きたい。
今後文中にあるような設計図が出て来るかもしれない。