2021年2月11日木曜日

空中自転車と水上自転車⑧

 空中自転車と水上自転車⑧

 かなり古い情報だが、1986年1月号の日経「サイエンス」誌に人力飛行機の特集があった。それによると、人力飛行機は技術上の観点から3つの世代に分類できとある。

第1世代の機体は木製トラス構造である。これらの機体は重くてきゃしゃで、直線飛行しかできなかった。

第2世代の機体はアルミパイプを骨格とし、外部張線構造をとっている。この種の機体ではじめて、直線以外の飛行ができるようになった

第3世代の機体は、カーボンファイバーなどを使うことによって、単純片持ち梁構造のスマートな機体となった。
 
 現在はもちろん第3世代に属しているが、しかし、まだ自由に飛べる訳ではない。大気の状態が非常におだやかな時でないと操縦は不可能であるし、だれもが乗れると言うものではない。今後も一つ一つ課題を解明し、実用に向けて挑戦がつづけられて行くものと思われる。
 ところで、ここで扱っている空とぶ自転車は、上記の第1世代にも属さない、全く初期の時代のもので、想像から試作の段階といったところをテーマにしている。しかし、既にそこには次の時代への萌芽が現われていることを読み取れる。

明治26年1月18日付の毎日新聞に“空中自転車の発明”と題して次のような記事がある。

 合衆国オレゴン州ユーゼンと呼べる処のジョーヂ・ミラーと云う人は此頃空中自転車なるものを発明し将に完成に至るべしと云へり而して空中自転車は人類に飛鳥の能力を与えるものにして大なる飛高力を起し此の力を保持し此力を前進せしむるを主とす去り作ら斯く言うは易しと雖ども之を行うは容易に非ず氏は此の器械に向って先づ器械学に行わるる規法を用いたり先ず第1の目的は一種の器械をして地上を離れしむるに在り氏は此目的を遂げんとするに要用なる力は是非共力の前進力及保持力を表わすべしと主張せり空中自転車は一の平板が1時間 60哩の速力を以て後部分は1インチの14分の12高く水平的に過ぐるものとせば将に14 ポンドの重を持つ可く之を前進するには僅に1ポンドの力を要すれば其速力を減ずるとなしと云えり空中自転車は車の中心より脚板を隔てて殆んど12尺の間に一直線に上進する鋼鉄の軸を存すべし而して2個の指若しくは扇の如きものありて平行線的に且つ交互に入分れたり1は2の中に入るべく2は3の中に入れ得べし而して大車輪即ち作動車輪は歯を有し脚板を動かす事と手にて方向を定むる事に依りて動かさるべし作動車輪は2個の小車輪の上に動くべし1は鋼鉄軸の基礎に密着し他の1は作動車輪の頂に於て他の軸に密着せり作動車輪が其作動を起す時に2個の扇は直に旋転し甲乙各反対の方向に動くべし斯くて内部の歯輪は外部に向って1時間60哩の速力を以て旋転するの力を羽翼に与えるなり此の自転車を上進せしめんとせば羽翼の旋回速力を増加すべて下降せんとせば其速力を減少すべし羽翼は接続所及曲墝点を有し居れば之を前進せしむるには頗る錯雑せる方法を以て之を動かすにあり羽翼を90度の角度に曲げなば後進するを得べし之を左右に曲げんとせば2個の羽翼中他の1個を多く転ずるにあり若し長途の旅行を為さんとせばガス若しくは電気の力を借るを要すと発見者は云えり扇の羽翼若しくは指と称するものは竹と縄とを以て造り歯輪のアルミを以て造れり発明者は農夫の子にして斯の如き大発明を為すの素養ありとは見えざれども教育あり資金あるが為め不遠此の事業を完成するに至るべしと云えり若し一朝此器械にして成功するが如きとあらば社会の光景如何に変化せんか殆んど想像すべからざるものあらん読者は水上自転車なるものは既に発明せられ居るを記憶すべし然らば空中自転車の発明も敢て希望すべからざる事には非るなり。

本文を読んだだけではどのような構造のものかまったく分らないが、幸い挿絵がある。それによるとどうやらヘリコプターのような駆動方式である。恐らく考え方としては正しいのであろう。しかし、この構造で人力だけによる浮揚、飛行は不可能と断言できる。現に今になってもそのような形態での空中自転車は現れていない。 

空中自転車
明治26年1月18日付の毎日新聞