2020年12月22日火曜日

自轉車研究會設立の必要

  以下の記事は、雑誌「輪友」第27号、明治37年1月1日発行(24頁から26頁)である。
何気なくこの雑誌の記事を眺めていたら、目に留まったものである。
一見、「自転車史研究会」と早とちりで見えたからでもある。
 先の佐野裕二氏の「自転車学」同様、先人達もいろいろと自転車との関わり合いについて考え、自転車を利用する各界における創意と工夫、そしてその効用の向上をめぐらしていたことが、このような文面からも伺い知ることができる。
 明治期の印刷物で甚だ読みにくい漢字や言い回しであるが、なるべく原文に近づけるよう配慮したつもりである、誤記も多々あると思うので、その辺を考慮しながら読んで戴きたい。

自轉車研究會設立の必要

長澤雄輪
 数年前までは、娯楽品視せられ贅沢品視せられたる自転車も、輓近非常の速度を以て流行の範囲を広めつつありて、その目的は、或はこれを軍事上伝令又は偵察などに応用せんとし、或は馬に仮に代用し、日常の交通機関として之れを利用せんとし、或は体育の具となし、或は日常激務の人は少閑を得て乗輪一蹴、郊外の空気を呼吸して衛生の一助となさんとし、又は遊行に、或い競走に、その他種々の目的に応用せんとす、要するに自転車の効用は、軍事上に、実用上に、体育上に、衛生上に、娯楽上に及び、従って何々会、又は何々倶楽部等の自転車団体も亦少なからず、然れどもこれらの団体なるや多くは清遊的会合をなすか、又は実用的練習の会合をなすか、或は競走会を開くに止り、未だ一の自転車研究会としての団体あるを聞かず、余輩恒に以て憾とす、或人難して日く自転車団体は、多く同好有志の集合より成れるが故に、その職業も亦千差万別にして、研究会員の資格は錯雑なるが故に、研究方法一致せず、極めて不便なるべしと、余輩願うにこの心配は杞憂に属せん、会員の職業千差万別なるは、却つて興味深きものなり、軍人は軍事上研究したる自転車の効用を述べ、科学家は科学上その研究を発表し医師は衛生上その利害を考究し、その他、法律家、商業家、等各々専門的知識により之を解決して、或は学理的に、或は通俗的に、各所見を交換せば斯道の発達上利益少なからざるベしと信ず、尤も自転車に関する雑誌上、これらの事項も屡々散見することあれども、同好の士一堂の中に会し、談笑の知識を交換せば一層妙ならん、但し他の演説討論会と違い、遠乗りを兼ねて少し少しその休憩時間を長くし、その間に是等の事項を加ふること最も可ならんと信ず。
 今一つ希望したきは、この研究会に付属して自転車の鑑定をなさば、大いに利益なるべし、盖し何商売にても、己れの商品を褒め他の商品を譏るは、勢ひの免れざる所なれども、自転車商に至りては常に互いに反目疾視し他の商品をけなすこと甚しく、要するに自転車商ほど商売敵の甚しきはなかるべし、故に乗輪を始め新台購求するに当たりては、、往々商人の瞞着手段に乗り、いかさま車を買ひ、修繕又修繕、遂に自転車ほど失費多きものはなしとして、終には乗輪を廃する、啻に失費を厭ふばかりでなく、車体の不完全なるがために、不測の災害を招き、終には自轉車ほど危険なるものなしとして、乗輪を廢する者なきにしもあらず、是等は自轉車の發達上、尠からぬ影響あることなれば、宜しく公平に鑑定を下し、善きを善しとし、悪しきを悪しとせば、終には奸商の跡を絶ち、斯界に利益を與ふること大ならん。

「輪友」第27号、明治37年1月1日発行