2020年12月23日水曜日

歴史を大事にしたい

  以下の記事は輪史会の会報「自轉車」(1990年1月15日発行)第50号記念特集にあたり、今井彬彦氏から特別寄稿していただいたものである。短文ながら自転車文化の蘊蓄が語られている。
 残念ながら今井さんも物故者(1915.12~2001.6.5)になっている。
今井さんについては雑誌「ニューサイクリング」誌の読者であれば、誰しもご存知のはずである。個人的趣味のサイクリングと戦後の自転車雑誌編集一筋に打ち込んでこられた人で、日本の自転車文化向上にたいへん寄与された方である。
 今井さんとは個人的にも何度もお会いしていて、拙宅にもお見えいただいている。温和な人柄とその存在感はいまでも忘れることはできない。佐野裕二氏同様、自転車文化に貢献したこの二人は双璧と言っても過言ではない。

今井彬彦氏略歴 
1915年12月京都に生れる。東京外国語学校仏語部に学び、以後雑誌、書籍の編集に従事する。昭和27年自転車関係の編集にはいり、昭和38年以降現在の雑誌を発刊し今日に至る。
職業としても、趣味としても自転車、サイクリング一辺倒の生活を過し、生涯この道を続ける予定。愛用の自転車をかって、サイクルツーリングにでかけるのを唯一の楽しみにしている。現在、月刊雑誌「ニューサイクリング」主幹。財団法人日本サイクリング協会常任委員。サイクルフレンドクラブメンバー。(1974年11月20日発行の「サイクリング」より) 

歴史を大事にしたい
今井彬彦(イマイ モリヒコ)
 最近クラシック自転車に関心を持つ人がふえて来て自転車を愛する一人として大変うれしいことと思います。
 日本の自転車関係とくに自転車を業としている人々、自分達の歴史を大事にする人が少ないのは残念に思っています。先人から受け継いで来た遺産を大事にして、さらに次なる発展をすべきはずなのですが、どうもその辺があまり少し気になります。どのメーカーに行って見ても、過去に自分達が作り上げた製品がほとんどなく、聞いて見ると時代が変ったので全部すててしまったといった言葉をよく聞きます。せめて1、2個でも自分達の歴史のあかしとして残して置くべきではないかと考えます。
 その反面、個々のサイクリストの中に古い物を大事にして保存しようとする人がいること、大きく言えば自転車文化の伝承のために良いことだと痛感します。この方向を今後とも続けばと思っています。
 ただ、見る所何か一部に片寄っているような面が見られるのがちょっと気になります。
大きな眼で自転車の歴史の面からでなく、せいぜい十数年位過去のものに目の色をかえているだけで、それより前、あるいは営業として成立しなかったものにしろ、何か現在の自転車、部品のアイデアの元になった一見、稚拙なもので、消えてしまったものなども堀り出して保存する雰囲気になればと思います。
 自転車文化とは何か、というのはむづかしい問題ですが、単なるモノマニアックなしに歴史を通じ、その発展を流れの中で見ることが大切なのではないかと思っています。

(編者注:今井彬彦氏は、月刊雑誌「ニューサイクリング」誌の編集長でクラシック自転車関係にも造詣が深い、今回は特別寄稿)

月刊雑誌「ニューサイクリング」
第10号 1964年発行
写真提供:渋谷良二氏

1974年11月20日発行の「サイクリング」