2020年12月9日水曜日

雑誌「扶桑」

 先日、書類を整理していたら「扶桑」の第2号がでてきた。この「扶桑」は岡本商店が顧客及び販売店向けに発行していたもので、非売品である。
 この雑誌の目次を見ると、「自転車発達史」も載っていて、興味ある内容になっている。この時代の自転車史に関する知識及び探求度合いの一端を垣間見ることができる。最近ではその存在が否定されている二輪のマクミランも登場している。
 それから巻末にはこの店で購入した顧客の住所録もあり、現代のプライバシーポリシーを考えると、まだ優雅な時代であったことが伺える。
 岡本商店は、宮田自転車の発売元であり、この店独自の銘柄で販売していた。一時は隆盛を極めたようで、その顧客リストからも伺える。
 東京をはじめ、地方でも数多く販売したことが分かる。東京以外の県名をあげると、埼玉、福島、千葉、茨城、栃木、兵庫、秋田、新潟、岩手、山形、青森、長野、鹿児島1名、大阪府1名で、その顧客数をざっと数えると2.200名である。
しかし、どういう訳か神奈川や愛知、静岡は無い。代理店の関係かと思われるが、理解に苦しむ。やはり東京が一番多く、約570名であり、全体の25パーセントを占めている。
 はたしてこの雑誌が何号まで発行されたか不明だが、この年の9月1日に発生した関東大震災の影響を考えると、会社も組織も壊滅的な打撃を受けたに相違なく、おそらくこの雑誌も中断した可能性は大である。

以下に一部本誌の内容を紹介する。
総ページ数は104頁、大正12年3月10日発行、発行部数は約2万部(1号は1万部)、桜の満開のころに次号と書いてあるから一応月刊誌のようであるが、確実ではないようだ。

まず、目次から、

「扶桑」第2号目次
●自転車発達史 宮田製作所研究部
●扶桑第2号発刊に際して
●勤勉化に不景気なし
●自転車お買入に就ての御注意
●危険防止宣伝絵を見て
●是から自転車を買う方に
●好一対のお話
●破天荒の電気応用パンク箇所、発見機の出現
●経費節減と女工の自転車

この中から下記の項目を抜粋する。

扶桑第弐號發刊に際して
岡本商店主 岡本 英
 宮田製作所特製品にして弊店發賣のアルファ、ツカサ、ハナブサ、エッチオー各號自轉車の愛乗家各位、並に同車代理販賣店、特約販賣店各位の多大なる御愛顧御後援を戴きまして、茲に扶桑第弐号を發行するに至りましたことを深く御禮を申上ます。
前號第一號は創刊で甚だお恥かしい雑誌でありましたが、夫れにも拘らず各位から非常な御讃詞を賜りまして眞に望外の光榮と存じます。
 引績きまして第弐號を疾くに発行致さなければなりませぬのでしたが、御承知の如歳末歳首で店務が劇増致して居つたので意外の延刊と為りまして寔に申譯もございません、各地方の愛輸家各位や代理店の諸君からも再三御催促を受けましたのも畢竟本誌御愛讀御聲援の賜と弊店一同難有感激致して居ります、其御愛顧に酬いるだけの立派な雑誌も出來ませんで甚だ遺憾の至りでありますが、幸ひ東京宮田製作所及び本號御寄稿の各位が深甚なる御助力御指導を賜りまして各位の御一粲を希ふに足るものが刊行致されましたことも亦厚く茲に御礼を申上ます。
殊に前號に於きましては一萬部を發行致しましたが、御希望の方が陸續踵を次いで續出致しましたので本號は更に發行部数を倍加するの盛況を呈しました、次號は櫻花爛漫の好季節に於て發行する豫定でございますから、何卒一層の御愛讀御後援を懇願蚊ます、因に本誌は小店で發行するとは謂へ、一般アルファ、ツカサ、ハナブサ、エッチオー各自轉車御愛乗家各位及び同車代理店、特約店各位の共有雑誌でありますから、各位御自身が御發刊に為つて居るやうな親しみと御熱心とを以て毎號陸績種々なる原稿を御寄稿あらむことを切望致ますと共に、又た御心付の点がありましたら御還慮なく御注意御𠮟咤あらむことを希います。
 そして將來永く讀者各位と編輯記者とは意志相通じて御意見を交換し合い、以て斯界及び我交通界の發展進歩に貢献することが出来、惹いて各位の御満足を得ると同時に本誌亦た々健實なる發達を遂ぐることを得せしめられむことを深く御依嘱懇望して巳まぬ次第でございます・・・(本誌の25頁~26頁)

とある。
旧漢字の変換に苦労したが、一部を除きなるべく原文の漢字を使用した。

表紙

目次

自転車発達史





雑誌「輪業世界」の広告

銘柄車



巻末の顧客名簿

岡本商店
日本橋区久松町29
裏表紙