2020年10月21日水曜日

銀輪のわだち その7

 「知られざる銀輪のわだち」その7

必要な文献目録づくり

仏語自転車関係文献目録
在パリ・小林恵三氏の快挙

ベロ出版社の『ニューサイクリング』を購読されている方なら同誌ですでにご承知であろうが、パリ在住の小林恵三氏が同地で四年がかりの仕事で『仏語自転車関係文献目録』をつくりあげた。
この連載のはじめにも自転車の発明については1790年のド・シブラック伯爵説は根拠が薄くなったとのべたが、それは今日では本家のフランスでも影を潜めつつある。最近の定説はドイツのドライス男爵の発明ということに傾きつつあるが、まだ確定的ではない(現在では確定している)。しかし、とにかくヨーロッパの自転車史は、1976年にフランスの研究家ジャック・スレー氏がド・シブラック説をくつがえすことから新しい研究がはじまっている。
こういう中で小林恵三氏がパリの国立図書館をはじめベルギー、スイスなどフランス語圏を渉猟して、1818年から最近までのフランス語で書かれた自転車文献ー。自転車史から文学上の記述まで、300点を調べあげて目録にまとめたことは、新しい研究への大きな貢献である。この目録はフランスのサイクリング協会(FFCT)と自転車競技連盟(FFC)との共同出版となった。
自転車に関する文献が散逸していて研究者の手に入らない嘆きは何回ものべたが、最近は当会のメンバーである福島県の真船氏からこういう電話をいただいた。
「古本屋で1869年、ロンドン発行のベロシペッデという本を発見した」という。
ご存知の方もいると思うが、わが会では2年前に、1869年ロンドン発行の『ベロシペデス』という本を復刻出版している。この本は鳥山新一氏も「世界でいちばん古い自転車書」と折紙をつけているものだ。ペデスとペッデではスペルの最後にSがつくかつかないかの差であり、発行地も発行時も同じー。
不審を問い合わせると「まったく別の本だ。イラストや図も25点入っている」という。これでまた定説がくつがえった。
小林恵二氏が今回まとめた文献目録によって、われわれも益するところが多いものと期待している。

『自転車術』より3年早い
『自転車利用論』の存在

ふりかえって、わが国の自転車文献の状況を見てみよう。日本で発行された自転車に関するまとまった著書は、明治29年2月発行の渡辺修二郎による『自転車術』ということになっている。このことは「東洋最古のまとまった自転車文献」として外国の出版物にも紹介されている。
ところが、前出の真船氏は昨年、明治26年3月に青木嵩山堂というところが発行した「内外書籍出版発行目録」を手に入れた。するとそこに『自転車利用論』定価7銭という本が紹介されていた。著者は金澤来蔵とある。
この連絡を受けて各地方の図書館、各大学の図書館で同書を探しているのだが、残念ながら見つからない(その後、国会図書館所蔵が判明)。もしも、これが発見されれば『自転車術』の東洋最古說はくずれてしまう。少くとも三年は早い。おまけにこの本の発行時は目録発行時よりも早いわけだから、実際にはもっとさかのぼるかもしれない。
さらに、最近、こういうこともあった。自転車文化史研究家の佐野裕二氏が『偕行社記事号外』という雑誌の明治29年2月号が「軍用自転車に関する所見、並に教育法」を掲載していることを発堀した。この記事は連載の後編であるから当然に前編もあるはず。だとすると、これも『自転車術』よりも古い。
わが国の自転車の歴史はまだまだ未発堀部分が多い 。私は、パリの小林恵三氏の快挙に刺激されて、いままでに存在が明らかになっている、わが国の自転車文献目録をつくってみようと思い立った。ほんの一部だが後半に掲げたのが、それである。
もちろん、これが不完全なものであることは承知の上である。多くの研究者の方がその不備をつぎつぎと補綴されてくれればタタキ台としての役が果せると思ってのことだ。私自身も今後さらに補綴していくつもりだが、ご協力をいただければ幸いである。
ここには、明治時代の文献しかないが、それ以後のものはかなり資料が整理されていて、自振協の『自転車の一世紀』等に詳しい。またわが会でも会報で自転車が登場する小説、随筆などはリストアップしている。やはり明治時代が闇なのである。

『風俗画報』の明治31年11月
不忍池畔自転車競走ノ図

上に掲げた絵は『風俗画報』の明治31年のもので、東京・上野の不忍池畔でおこなわれた自転車競走運動会。記事には当時タバコ王とうたわれた岩谷松平が転倒したことや、華族令嬢が多く参観したこと、そして、賞品が何であったかなどが書かれている。
したがって、こういう雑誌も重要な文献になるのである。そういうことをお含みの上で以下の文献目録に目を通していただきたい。
なお、『仏語自転車関係文献目録』はベロ出版社、または自転車文化センターで幹旋中。また『ベロシペデス』と後出の『中村春吉自転車世界無銭旅行』はわが会で復刻版を斡旋中(現在この3冊とも既に斡旋は終了している)。

江戸・明治期自転車関係文献目録
「からくり訓蒙鑑草」多賀谷環中仙著 亨保15年
「横浜文庫」橋本玉蘭斉 慶応元年
「長崎日記」田中久重 慶応2年
「ジャパン・パンチ」チャールズ、ワーグマン 明治2年
「絵入り智慧の環」明治3年
「御布告緊要録」書式集 明治7年  
「公用文式」 巻菱潭編・書,温故堂, 明治8年  
「東京一覧」 井上道甫編,須原屋茂兵衛,明治8年
「地方税規則」自転車、明治10年
「東京経済雑誌」経済雑誌社、第218号 明治17年
「一顰一笑 新粧之佳人」須藤光暉(南翠外史)著 正文堂、明治20年5月
「啓蒙字類」木村登代吉編、明治20年7月
「家扶日記」徳川慶喜関連、明治20年
「亀次郎日記」松本亀次郎 明治20年
「欧洲之風俗 」 西滸答案他,大庭和助, 明治20年  
「西洋風俗記」 西滸著他,駸々堂,明治20年
「学びの手車」転輪館 明治22年
「風俗画報」第11号、第168号、第178号 明治22年から?
「不思議国巡回記」雑誌”小国民”(新発明自動自転車)明治23年6月
「乗方指南 自転車利用論 完」金澤来蔵著 普及舎 明治23年9月
「異国漫遊 瓜太郎物語」明治27年1月
「教育ポンチ新案絵ばなし」加藤耕書堂, 明治27年
「女の顔切」江見水蔭・関戸浩園著, 明治28年10月
「少年教育遊戯」 嚶々亭主人著,求光閣, 明治28年
「自転車の傷」野村銀次郎・磯部太郎兵衛 明治28年  
「娯楽倶楽部」民友社, (社会叢書 ; 第3巻) 明治28年
「偕行社記事号外」第280号 明治29年
「自転車術」渡辺修二郎著 少年園発行 明治29年
「三輪自転車の写真」埴 亀齢、上田市博物館蔵 明治30年頃
「中学世界」月刊雑誌、第2巻第3号から4号 博文館 明治31年
「流行」月刊雑誌、流行社 明治32年から?
「自転車乗用速成術」村松武一郎著 内外商事週報社 明治32年
「新式自転車独習」岩田可盛訳 叢書閣 明治33年
「フートボールと自転車」三井末彦著 博文館 明治33年
「運動界」雑誌 明治33年から明治35年?
「自転車」月刊雑誌、快進社 明治33年から大正10年頃?
「自転車お玉」伊原青々園著 金槙堂 明治34年
「自転車乗用の医学的観察」入澤博士講演記録 明治34年
「輪友」月刊雑誌、輪友社 明治34年から大正?
「自転車強盗」三省社瓢馬講演、明治34年
「自転車乗用の医学的観察」入澤達吉博士講演 明治34年
「神奈川県横浜市実業家要録」明治35年
「簡易自転車修繕法」佐藤喜四郎著 快進社 明治35年
「自転車全書」松居真玄著 内外出版協会 明治35年
「自転車指針」梅津大尉著、快進社 明治35年
「風流的自転車(松葉)」雑誌”新小説”P.168 明治35年8月
「猟輪雑誌」月刊雑誌、猟輪倶楽部 明治35年から明治36年?
「自転車世界」月刊雑誌、自転車世界社 明治35年から明治36年?
「自転車談(紫櫻)」雑誌”太陽”P.125 明治36年8月
「三友雑誌」月刊雑誌、明治36年から明治40年?
「滑稽新聞」宮武外骨 第48号 明治36年
「デートン・カタログ」双輪商会 明治36年
「最新東京繁盛記」明治36年
「日米商店商品目録」岡崎久次郎 明治36年
「自転車正価表」石川商会 明治37年
「魔風恋風」小杉天外作 春陽堂 明治37年
「少年」雑誌、時事新報社、第26号、明治38年
「ピアス略目録」石川商会 明治39年
「石川商会自転車カタログ」明治39年
「日本製材時報」第5号 明治41年
「輪界」月刊雑誌、輪界雑誌社 明治41年から明治45年?
「中村春吉自転車世界無銭旅行」押川春波編 博文館 明治42年
「清輪」月刊雑誌、清輪時報社 明治43年頃
「全国自転車商名鑑」大阪輪友雑誌社 明治43年
「今流行自転車節と博多節」大淵 浪 明治43年
「信越輪界」月刊雑誌、明治43年頃
「横浜成功名誉鑑」横浜商況新報社 明治43年
「明治事物起源」石井研堂著 明治41年
「如蘭社話」巻43、記脚踏車 明治44年

季刊「サイクルビジネス」№19 涼秋号、1984年10月30日、ブリヂストン株式会社発行、「知られざる銀輪のわだち」より(一部修正加筆)