一遍聖絵など
下の画は「一遍聖絵」と「中世近世 街頭生活者繪巻」からである。
これらの画は以前から気になっていた。直接に自転車とは関係ないものの日本の車の歴史や車輪の変遷などを調べていくと、これらの車が目に留まる。
これも乗り物であり、或いは居住を兼ねた小屋車と云える。
「一遍聖絵」は説明するまでもなく、鎌倉期を代表する文化風俗を活写した重要な歴史絵巻であり、その奥書にあるように、1299年(正安元年)一遍の弟子の聖戒が詞書を起草し、円伊が絵を描いたと云われている。
ただし、下の画は江戸期の天保11年出版されたものである。
その興味ある部分は「一遍聖絵」第二で、そこに描かれているのは築地塀にへばり付いているような屋根付きの車である。連結されている小屋もあれば独立している小屋もある。一見して最下層の人の移動式住居と云える。差別的用語で言えば、乞食或いは不具者などが利用していた小屋である。
この小屋の画をよく見ると意外としっかりした造作であり、冬はともかく夏場は快適とは言わないまでも雨や風もしのげるし、ある程度は生活に支障がなかったはずである。当時はこのような小屋車を製作する職人もいたはずである。
しかし、その付近にいる乗馬の武士や従者などと比較して見れば、歴然として差別されていた人々であることがわかる。
一番下の画は「中世近世 街頭生活者繪巻」からのもの。発行年は不詳であるがおそらく江戸期と思われる。
この車は差別的な言葉にもなるが所謂「いざり車」である。障がい者がこの車に乗り、物乞いをしながら周辺を巡るのである。この車は移動手段であり、住居は粗末ながら別な場所にあったはずである。身なりからしてそのように推量する。単なる乞食ではない。或いは物乞いをしないまでも車いすのような使われ方もしていたと思われる。