2021年8月4日水曜日

スチール製十字号

 スチール製十字号

下の写真はスチール製の十字号である。

正確には名称が十字号であるかどうかは分からない。その形状は見ての通り十字号と変わりがないから取り敢えず十字号と仮称した。どう見てもその形状は素材のジュラルミンとスチールの違いだけのように見える。

この自転車との出会いは既に40年になる。私が浜松に単身赴任していた頃に、偶然に小栗自転車店を知るようになった。そのきっかけはラレーロードスターに付いていたスターメイ・アーチャーの内装ハブが故障して、どこの店に行っても修理ができないと断られていた。たまたまあるバイク屋さんを訪ねたところ、腕のいい自転車店を知っていて、浜松市鴨江の小栗自転車店を紹介してくれた。

或日、小栗自転車店を訪れた。店主は小栗幸平さんと言って、この時すでに83歳のご高齢であった。まず驚いたことは店の佇まいで、一般の自転車ショップのイメージからまったくかけ離れた店であった。店内に新品の自転車が置かれていないこと、床は土間であった。天井から古いフレームが何本も下がっていたり、中古の自転車が数台置いてあった程度。修理用の大きな作業台には万力があり、土間には確かフイゴのようなもがあった。昔の鍛冶屋のことは知らないが、たぶんそのイメージに近い店である。

小栗さんは釣りが趣味で、ちょうど釣から帰ってきたところで、さっそくスターメイ・アーチャーの内装ハブの修理依頼をした。即、快諾をいただき、その日は自転車を預けて帰る。

数日後に、店へ行ったところ、既に修理は終わっていて、完璧に直っていた。これがきっかけで小栗さんと親しくなり、中古車だが2台この店で購入した。1台は昭和22年のジュラルミン製岡本ノーリツ号で、これは天井から下がっていたフレームに適当な部品を組み合わせ作っていただいた。もう1台はこれも昭和20年代のフレームで、形状は十字号のような形であった。

前置きが長くなったが、その自転車がこのスチール製十字号である。

見ての通り極めてシンプルで素晴らしい。既に気付いた方もいると思うが、この自転車のブレーキまわりである。ワイヤーブレーキやロッド式ブレーキではない。当初からコースターブレーキのみであった。前ブレーキが無いため見た目もスッキリしている。ほぼオリジナルに近い状態で小栗さんが仕上げてくれた。サドルだけ欠損していたので新しいものと交換した。確かブルックスか何かであったがこの写真からでは判別出来ない。

ヘッドチューブのところにマークのシールが貼ってあったが経年劣化で判読できなかった。何度も拡大鏡で見たのだが分からず。結果メーカー名は分からず。

現在、小栗さんの店はない。Googleストリートビューで見たら一般の住宅に変わっていた。
この自転車と共に小栗幸平さんとの出会いは懐かしい思い出になっている。

参考までに初期型の三菱十字号の写真も下に載せた。

現在は自転車文化センター所蔵

初期型の三菱十字号