2021年8月31日火曜日

牛車の製作

 牛車の製作

下の資料は牛車の構成部品の名称について書かれている。

この元資料は1905年(明治38年)発行の「宮殿調度図解」関根正直 著である。

車輪は自転車でも重要な部品であり、その各部の名称も当然ながらこの牛車との共通点がある。たった一字の漢字にも意味がある。この難しい漢字そのものからも何となくその部品のイメージが浮かんでくるように思える。

以下、牛車の製作部分を抜粋する。

牛車の製作

上古の車はいかなる製作なりけむ、詳に知りがたし。藤原時代に至りての製は記録の文と、當時の繪畫とによりて窺ふことを得べし。醍醐天皇の延喜の始め、先規旧章をたづねて更に諸式を選定せられし中に、車の製並びに用材のさた見えたり。すなはち延喜の内匠式と、和名類聚抄とを合はせ考ふるに、轓、輪、輻、轅、轂、轉、軸等の名稱あり。

轓(ハン・ホン) 車の屋形なり。俗に車箱と書き久留末乃波古(クルマノハコ)と云ふ。

輪 (わ・タイヤとリム) 於保和(オホワ)といふ。車脚の進轉する所なり。櫟(くぬぎ)を以て作る。

輻(や・スポーク)  輪と轂との間なる細木なり。夜といふ。矢の義なるべし。樫(かし)にて作る。

轂(こしき・ハブ) 輻の湊まる所なり。古之岐(コシキ)と稱す。俗に筒ともいふ。

轅(ながえ)車前の長き木なり。加奈江(ナガエ)といふ。長柄の義なり。俗に後方を鴟尾(トビノヲ)といふは、形よりや名つけけむ。

軛(くびき)轅の端にて、牛の領にあたる所なり。久比岐(クビキ)といふ。

轉(ころぶ・テン)車下の索なり。止古之婆利(トコシバリ)といふ。床縛の義なり。之を以て、車箱を車臺に結び付くるなり。

軸(じく・ハブの芯棒) 輪を持する細き木なり。與古加美(ヨゴガミ)といふ。

軾(しきみ) 車の前の板なり。止之幾美(トジギミ)といふ。

此の他、轄(くさび)と云ひ釭(かりも)といふものなどあれど、さる細かきことまでは、煩はしければ省きつ。大體のことはに就いて知るべし。

註、括弧内は漢字の読みと分かりやすいようにスポーク、ハブなどを追加した。
藤原時代・・・ 894年(寛平6年)~1185年(寿永4年)まで。
醍醐天皇の延喜・・・平安時代中期。900年頃。
櫟や樫など部材の材質まで書かれていて興味深い。

「宮殿調度図解」1905年
国会図書館所蔵資料
コマ番号64